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原作知識なし夢主の少し変わった原作沿いトリップ夢小説。
思春期少女から大人の女性へ。彼女の日常を切り取ったような物語。

第一章

  • 01

    美しい赤や黄、紫色した木々が生い茂る山の獣道を登っていた。山に入り一時間以上歩いている。学校指定の革靴は光沢をなくしていた。純白だった靴下は土や埃が付き茶色く汚れ、草木を踏みつけ移動していたために少し緑に染まっている。藍色のチェックのスカー…

  • 02

    黒髪の少年は誰もいないビーチをあてもなく歩いていた。彼の名前はシンタロー。今年の4月からガンマ団士官学校に通う予定になっている。シンタローの父、マジックが理事長を勤める学校だった。有能な能力を持つ子供を集め育て、殺し屋として戦場に送るための…

  • 03

    気が付くと、見知らぬ部屋のベッドの上で寝ていた。覚悟を決め自殺したつもりが、助かってしまった。崖から飛び降りたためにケガをして、病院に運ばれたとは覚醒したばかりの頭で想像する。体がいつもより重く感じる。もしかしたら掛け布団が重いのかもしれな…

  • 04

    は白いソファーに座り窓から見える海を眺めていた。まだ体が自由に動かすことが出来ず、海を眺めるぐらいしかなかった。サービスは移動している途中に、発見された時のことや、この建物の説明をしてくれた。は彼の話を黙って聞き口を挟まなかった。いや、口を…

  • 05

    十五日目の朝。はサービスの顔を見ながら、昨日と同じ朝かもしれないと思い欠伸をした。心地よいベッドから体を起こす。窓から入り込む朝陽が眩しかった。「おはようございます」「おはよう。今日はゆっくり寝られたかい?」背伸びをしながら縦に首を振り、意…

  • 06

    「あの、サービスさん、お願いがあるのですがいいですか?」カウチに寝転がりクリーム色の天井を見上げていたは、分厚く古めかしいノートパソコンを真剣に見ているサービスの背中に声を掛ける。サービスはこちらに振り替えりはせず間を空けてから返事をくれた…

  • 07

    名前を呼ばれている。返事をしなくてはならない気がし、口を開けるが声が出ない。早く返事をしなければ―――が目を覚ますと、辺りはまだ薄暗い早朝。寝汗をかいたのか喉に渇きを感じ、水を飲むために体を起こしベッドから抜け出した。微かに尿意もあったので…

  • 08

    いつまでも床に座っているのもおかしいので立ち上がると、少年と顔の位置が同じになった。顔立ちがしっかりしていて、髪は綺麗な黒。光りに照らされても茶色に見える事もなく、黒を主張し潮風に揺れている。瞳も髪の毛と同じ黒色で、霞や曇りが見られず輝いて…

  • 09

    少年は勢いよくコーヒーを飲み干すとに笑顔を向けてきた。「ごちそうさまでした」手を合わせると、爽やかに言う。少年は腕を上げ背伸びをしていると、大きな声で「あっ!」と何かに気が付いた声を上げた。「サービス叔父さんはいつも何時頃に来るか、教えてく…

  • 10

    「蛙」「ルビー」「ビーチサンダル」「ルアー」「アニマル」「る、る…ルール!」「ルノアール」「るっ、ルーマニア?」「アルコール」「る、る、る、ル?―――あった、ルイヴィトン!」「ルイヴィトン?」「じゃなくて…ループ!」「プール」「また『る』?…

  • 11

    「失礼な事を質問していいですか?サービスさんってどこの人?」「―――どう見える?」「日本人以外に見えます」しりとり勝負に疲れて眠ってしまったは夕飯を持ってきたサービスに起こされ、目を開けると既に陽が沈み外は暗くなっていた。本日の夕飯は鰹だし…

  • 12

    サービスの話が一段落すると二人でテーブルの上を片付け、食後のお茶として緑茶を入れソファーに移動する。カウチに座ったが熱いお茶を少しずつ飲んでいると、一人掛けのソファーに深く座っているサービスが肩に手を置くと首をゆっくりと回し始めた。日頃の疲…

  • 13

    夜も更け、仕事が一段落し背伸びをする。小さな事務所には自分だけ、聞こえるのは海の音と機械音。明日の献立を考えていると、扉を勢いよく開く音が事務所内に響き体が揺れた。振り返ると珍しい格好をした上司が立っていた。「お、おつかれさまです、サービス…

  • 14

    「よっ!遊びに来たぜ」サービスが部屋を出ていってから、五分もしないうちに窓の外にシンタローが現れた。は窓からだが、快く部屋の中に招きいれる。シンタローは一人掛けのソファに座るなり、いつまでこの島に居るのかを聞いてきた。それはも気になり毎日の…

  • 15

    朝食が好物ばかりで腹八分目以上食べたは、窓ガラス越しに差し込む日差しを浴びながらカウチに座り舟を漕いでいた。カクンと首が揺れ顔を起こし、目を瞬かせながら寝てはいけないと心の中で言い聞かせる。ぼやける頭で立ち上がり腕を伸ばして窓を開けると、微…

  • 16

    「ねぇ、サービス叔父さん。診察が終わったら、父さんが来る時間までと一緒にいればいいんだよね。この部屋を出てビーチに散歩へ行ってもいい?」いつの間にかシンタローはの側に移動し、サービスに質問をした。「森に入らないと約束ができるなら出かけてもい…

  • 17

    昼食の時間。シンタローはフォークを片手に笑いながら楽しそうに話を進めていた。「それでさ叔父さん、岩にいたフナムシをゴキブリと勘違いしてさ、驚いて海に落っこちたんだ。落ちた所はスゲー浅い所なのに軽く溺れて、半狂乱になりながら『ゴキブリ、ゴキブ…

  • 18

    いつもはサービスと二人だけの食事だったが、今日は久しぶりの騒がしく楽しい食事。は診察を終えてからシンタロー達と浜辺へ散歩に行ったために空腹だった。食事がいつもよりおいしく感じながら食べていたが、話したり笑ったりで忙しくなかなか進まない。やっ…

  • 19

    『若かった私へ こんにちは。元気にしていますか?たしか今日はグンマ君のフナムシパニックの日だったよね?この手紙を書いている私の名前は、未来のあなたです。意味がわかんないとか、頭ヤバいとか思うかもしれないけど真実だからね(実際私が読んだ時に何…

  • 20

    昼食時より人数が増えた夕食は騒がしい。四人で狭く感じるテーブルに六人座るのはとても狭く隣の人の腕が当たって窮屈だったが、は次第に気にならなくなっていった。マジックは息子のシンタローから離れずに世話を焼いていて、はぼんやりと両親を思い出し少し…

  • 21

    窓から外に出ると潮風が頬を撫でた。空は曇っており暗く少し肌寒い。カーディガンを羽織ってきて正解だとは考えながら手紙をポケットに閉まった。静かに聞こえる波の音は気味が悪く感じ走り出す。昼間にシンタロー達と訪れたビーチの周りには建物はなかった。…

  • 22

    今、がいるのは地下にあるサービスの寝室。サービスが手紙を読み終えた後、この部屋に移動をした。地下への階段を降り少し歩くと突き当たりに扉があった。地上の部屋と同じアンチックなデザインの茶色い扉。「驚くと思うよ」とに耳打ちをしサービスは開ける。…

  • 23

    朝から雨が静かに降っていた。窓の外は灰色の世界で、だんだんと気分が降下していく感じがしはカーテンを閉め隠した。こんな気分になるのは、夜遅くまで難しい話をしていたから疲れているのだと決めつけカウチに寝転がる。サービスにお願いして準備をしてもら…

  • 24

    夕食後シンタローを見送ってから、部屋に戻り寛いでいるとサービスに散歩に誘われた。外に出ると空は暗くなっており微かに星が瞬いている。昼に雨が降っていた為か少しだけ海が荒れていた。半歩前を歩くサービスの背中を追い湿った砂を踏みしめる。サンダルを…

  • 25

    はマジックのセンスに目眩がし、気付かれないように溜め息を吐いた。先日マジックはシンタローと共にこの島を出発した筈だったが、突然の部屋にひょっこりと現れた。ベッドに寝転がりながら洋服のカタログを眺めていたはいきなりの事で驚き、何故いるのか理由…

  • 26

    現在の時刻は10時過ぎ。テーブルにはスコーンやマフィン、マカロンが並びカップの中には琥珀色の液体が揺れている。「二人ともわかってるかい?出発は明日だからね」「明日……」ガンマ団本部付近にある小中高一貫校に通うため明日この島をグンマと共に出発…

  • 27

    出発の日はいつもと同じ朝だった。サービスの態度も、窓から見える海の様子も、自身さえ何も変わらない。明日からこの部屋じゃない所で寝起きをする。はなんだか実感が湧かなかった。明日も明後日もこの部屋でサービスと一緒に過ごす気がしたからだ。「サービ…

  • 28

    「飛行機に乗ったの初めて」窓ガラスから外を見る。下界には広い海と小さな島しか確認できなかった。どんどんと小さくなっていき遂に見えなくなると恋しさと寂しさが押し寄せてきた。「ちゃん大丈夫?離陸時から顔色悪いよ」心配そうに隣の席に座るグンマはス…

  • 29

    ガンマ団本部はの想像を遙かに越える場所だった。まさにSF作品に出てくる基地といった巨大な建物。天高く聳え立つ塔の様な円形のビルは何階まであるのだろか。所々から大きな砲台が突き出していた。飛行機から降りると軍服を着た一人の男性が立っていた。高…

第二章

  • 01

    朝、七時に目覚まし時計に叩き起こされはベッドから抜け出す。兎の形をした目覚まし時計の耳を捕まえ、ギザギザの髭を一本引っ張り動きを停止させる。このぬいぐるみの形をした時計は、ガンマ団本部に初めて来た日の夜に行われた食事会の時に、グンマから贈ら…

  • 02

    チャイムが校内に鳴り響く。午前中の授業が終わり、学生達は皆バラバラに立ち上がるとそれぞれ弁当箱や鞄を持って移動した。机を集めると顔を綻ばせ談笑しながら食事をする者や、教室から出て中庭またはランチルームで食べる者。はそれらを冷ややかな目で見て…

  • 03

    「高松さーん」書斎の扉をリズム良くノックをし、返事を待たずにはドアノブに手を掛け開く。「失礼します。勉強教えてもらいたいんですが」恐る恐る部屋の中央に置かれているデスクに近づき遠慮がちに笑いかける。高松は困ったように溜め息を吐くと卓上に散ら…

  • 04

    オレンジ色をした兎の目覚まし時計を抱き枕として使いながら、は電話での話に花を咲かせる。今、話をしている相手は義理の兄のシンタロー。毎週土曜日の夜に電話で話をするのが二人の間では決まり事となっていた。「でね、高松さんからもらった花の名前を考え…

  • 05

    けたたましい足音と人の喋り声で驚いて目を覚ましたは、辺りを見回し溜め息を吐く。まだ部屋の中は暗いが、カーテンを閉め忘れた窓からは薄い光がこぼれており、今は早朝だということを主張していた。覚醒していない眼で兎型の目覚まし時計を探し、時刻を確認…

  • 06

    寝真似をしたが起こされたのは、自室を連れ出されてから数分後。エンジン音と早朝独特の森の香りと湿り気を感じ、屋敷の外に出たのだと理解ができた時「寝た振りは止めて目を開けろ」と声をかけられた。恐る恐る瞼を動かしはしょぼつく目を開ける。一番最初に…

  • 07

    目の前に広がる光景に驚いた。床には空の瓶と缶。あと、くしゃくしゃになった紙屑で覆われており、足の踏み場がないとはこの事を言うのだとは思う。換気扇が回っているはずだが部屋の空気は濁っており、臭いに耐えきれず鼻で息をしない事にした。ちらりと斜め…

  • 08

    どこからか打ち上げ花火の様な爆発音が鳴り響くが、今のではその音が夢か現実か判断をつける事ができなった。あれは確か去年の夏祭り。まどろみの中では姉と一緒に出かけた時のことを思い出していた。日が沈み、祭りが最高の盛り上がりをみせる時に花火が打ち…

  • 09

    受話器から聞こえてくる声は今にも泣きそうで罪悪感に襲われる。『それじゃちゃんは平気なの?』「平気平気、大丈夫。心配いらないよ」『本当に?だってあのハーレム叔父様の所だよ?』「もうー、大丈夫って言っているじゃん。グンマ君心配し過ぎ」は安心させ…

  • 10

    叔父に激しく揺さぶられ目を覚ますとアルコール臭がし眩暈がした。朝から千鳥足で呂律が回らない叔父を放置しは顔を洗うため部屋を出る。殺風景な船内を歩き目的地に着き、ドアを開けるとそこには先客がいた。革のズボンを穿いた半裸の男性と、ガンマ団一般兵…

  • 11

    遠く離れた学校でクラスメイト達が必死に勉学に励んでいると思うと、学校を怠けて休むのは心地が良いものだった。今の時間は校庭での体育。あの二人一組のストレッチや、出席番号の偶数と奇数で分かれたグループでの試合。苦痛でしかなかった物事から解放され…

  • 12

    薄暗い段ボールや木箱だらけのこの部屋は、埃と火薬が混じった臭いが充満しており息が詰まりそうだ。眉を顰めつつ作業をしている男に事の成り行きを事務的に話すと、彼は頷き壁際の段ボールの上に無造作に置かれた用箋挟を取り上げ差し出す。挟まれている用紙…

  • 13

    武器の在庫調べはパステルの言う通りすぐに終わり、Gと共にリビングルームに行くと昼食の準備が始まっていた。テーブルの上には大きなボールに入ったサラダと、取り皿が置かれている。カレーの良い香りに包まれたパステルに作業終了の報告をし、次は何をすれ…

  • 14

    ゆらゆらと空中を漂い消えていく様子は綺麗で、ついつい目で追いかけてしまう。二度と同じ形にはならない煙がいつも不思議だった。副流煙を避ける様にソファの上を移動し膝を抱える。ソファの端で小さくなった少女に対し、ハーレムはくだらない悪戯を思いつき…

  • 15

    可愛らしいクマの人形たちに見つめられは居心地が悪かった。自身の身体を滑るように動いているメジャーをちらりと盗み見をする。「腕を、伸ばして下さい」肩から指先までの長さを測りGは次の指示を出し、その指示に従いは体勢を変えた。今から二十分程前の事…

  • 16

    シャワーを浴び終えたは水で濡れた扉をそっと数センチ開き、誰もいないことを確認する。籠に積まれているふかふかのバスタオルを取ると、手早く簡単に身体を拭き念のためタオルを身体に巻きつけた。数歩進み洗濯機を覗きこみ、いつも通りは溜息を吐く。下着と…

  • 17

    眼魔砲。説明を聞いたは頭痛を感じたので額を押さえる。「そんな漫画みたいな、非科学的な事信じられません」「実際に打つ瞬間を見ればいいと思うんだけどよぉ、これ以上船を壊せねーし。地上に降りたら見してやるよ。なんならロッドやマーカーのも見りゃいい…

  • 18

    煌びやかなネオンに目を奪われながら大人たちに交じり進む。「あっ!!」は驚きで声を上げると、慌てたようにハーレムは振り返りロッドを睨みつけた。「どうした?またロッドか!」「俺なんもしてねーっすよ」ロッドの声を聞きながらは口を開く。「いや、ここ…

  • 19

    何処までも続いていく、くすみのない赤の絨毯。エントランスの真ん中には大きな美しい噴水。頭上で煌めく沢山のシャンデリアの光によってホテル内が輝いていた。待合のソファーに腰掛けている人々は皆上品な恰好をしている。は自分の存在が場違い思えGの背中…

  • 20

    カジノへと向かう通路を大人達に混ざり、なれないミュールを履いたはおぼつかない足取りで歩いていた。「―――様、似合っていますね」突然声を掛けられ後ろを振り向く。「あっ、ありがとうございます」は恥ずかしさから慌てて言う。今日だけでも数回は恰好に…

  • 21

    今はガンマ団特戦部隊専用飛行船のダイニングルームにいた。ホテルに泊ったのは1日だけでお昼前にチェックアウトし船に戻ってきていた。ダイニングにいる隊員たちは夜通しカジノで賭けごとに励んでいたので皆どこか眠そうだったが、ただ一人だけ元気な者がい…

  • 22

    飛行船から見るガンマ団本部は相変わらず物々しい様子では変わっていないことに何故か安心した。朝靄が漂う中、無事着陸し船から降りると出迎えが達を待ち構えていた。「久しぶりーちゃん!」「グンマ君!!」約一週間ぶりの再会を喜び少し涙ぐんだグンマが抱…

  • 23

    「何食べる?」「うーんと、ここのチョコバナナ食べたい」「いいねー!僕もチョコバナナ大好き!」マジックと共に士官学校に来たは、理事長としての仕事がある彼と別れ、先に来ていたグンマと合流していた。「あとは?」「僕、綿飴食べたいな」「綿飴か、どの…

  • 24

    「いっけー!負けないで!がんばれ!」暑い熱気に包まれた体育館。リングに上では学生が技を決め、審判が叫ぶ。は初めて見る格闘大会の迫力に興奮を隠せずにいた。自分の声が枯れようが構わない位に叫びながら知らない選手を応援する。応援した選手が勝利を決…

  • 25

    夜の八時五十九分。はオレンジ色した兎の目覚まし時計を抱き枕として抱きかかえながら、ベッドサイドに置かれた電話の子機を見つめていた。時計の針が動き九時になった瞬間、子機のランプが光る。は素早く手に取ると通話のボタンを押した。「優勝おめでとう!…

  • 26

    明るい日差しに照らされた通りを幸せそうに歩く人々のなか、は隅に寄り疲れ切って立っていた。手に持った買い物袋を地面に下ろし溜息を吐く。彼女の目線の先には少し古めかしい大きな携帯電話で話をしているマジックがいた。マジックとの買い物が始まって、3…

  • 27

    「シンタロー君おかえりなさい」「おう、ただいま」夏の日差しが容赦なく降り注ぐ中、はガンマ団本部基地の入り口で、夏休みに入り帰省してきたシンタローの出迎えをしていた。「あー、この塔を見ると帰って来たって感じがするぜ」小麦色を通り越し真っ黒の肌…

  • 28

    静まり返った廊下を歩いていたは少し不自然に感じ歩みを止め、耳を澄ます。どこからも機械音が聞こえて来なかった事を疑問に思いは目的地を変更させまた歩き始めた。慣れ親しんだ階段を上り、最初の角を曲がる。ぐんまの研究室と書かれたプレートが引っ掛かっ…

  • 29

    大型のテレビ画面内を走り回る青色と赤色と肌色のドット絵で出来たキャラクターをシンタローは真剣に見つめていた。スピーカーから流れる軽快な音楽には懐かしさを感じながら、手持ち無沙汰の為リズムに合わせ体を揺らしつつ口を動かす。「落ちろ!落ちろ!」…

  • 30

    青空が広がる中冷たい風が吹く。夏が過ぎ、秋が来た。長い休みの終わりも夏の終わりと共に訪れシンタローは士官学校へと戻り、は高松とグンマの元へ。グンマの屋敷のまわりの木々も美しく色づいた頃、は季節の変わり目で少し体調を崩していた。美しい林を眺め…

  • 31

    ガンマ団本部にある一族専用のエレベーターに飛び乗ったはボタンを連打し、落ち着かない様子で立っていた。壁のガラスに姿を映し髪型を念入りに整えていると、エレベーターの扉が開いた。足早に無機質な廊下を進み、角をいくつか曲がり総帥室へと急ぐ。目的地…

  • 32

    試験管に閉じ込められた物体がこちらに向かって笑いかけてきた。足が、手が、体全体が動かなくなる。笑いかけようか迷った時、名前を呼ばれた気がした。「あっ!」「起きた?ちゃん」瞼を開けると目の前には心配そうなグンマの顔があった。はグンマから視線を…

  • 33

    まだ薄暗い時間、は雪が舞う中を足早に歩く。ガンマ団本部正面玄関から中に入り、エレベーターホールへと向かっていると、一人の隊員に出会った。「ティラミスさん。おはようございます」「おはようございます」「もう出勤ですか?」「はい。今日は194国に…

  • 34

    窓の外では雪が深々と降っていた。ガス暖炉の柔らかな炎によって暖められた居心地のいいリビング。柔らかなソファーに座っていたはカップを持ち上げ、静かにココアを飲んでから口を開いた。「それで、シンタロー君ったら私の誕生日に格闘技をやる為の本を送っ…

  • 35

    暖かな春の日差しが差し込む中、はドレッサーの鏡と向き合っていた。丁寧に髪に櫛を通していると扉をノックする音が聞こえたので立ちあがる。返事をしながら扉を開けると、若い二人の女性が部屋に入って来た。「様、今日は宜しくお願いいたします」「いえ、お…

第三章

  • 01

    無機質な狭苦しい事務室にはいた。似たような数字を目で追い、一つ、また一つと確認していく。正しければ鉛筆でチェックをし、間違いがあれば赤で修正する。同じ事の繰り返しには集中力を切らさないようにしていると、向かいの机に座っていた上司が立った気配…

  • 02

    暖かな空調の入った廊下を歩きながらは手に持ったノートの表紙を見る。そこには女子特有の丸みを帯びた文字でナンバー15と書かれていた。は文字を指でなぞり、自分の字の下手さを少しまずいと思い、新聞の広告で良く見る通信のペン字習字講座を受講しようか…

  • 03

    窓の外では深々と雪が降る中、は暖房の効いたカフェテリアで食事をしていた。四人掛けのテーブルが並び、体格の良い隊員達が少し狭そうに食事をするなか、は贅沢にテーブルを一人独占して座っている。相席を頼まれれば快く受けるつもりでいたが、誰も来ようと…

  • 04

    慣れないワードプロセッサで報告書を作っていたは一旦休憩する為に動かしていた手を止め、椅子に座ったまま背伸びをする。事務所の壁に設置されている時計を見ると七時を指しており、窓の外を見ると真っ暗ではこのまま残業を続けるか迷っていた。向かいの席に…

  • 05

    寒さが身に染みる一月。赤子を抱きながらは顔が緩むのを止められずにいた。シンタローと、そしてマジックは、一二月に生まれた弟の退院の手続きをする為にガンマ団本部基地にある病棟へ訪れていた。「可愛いね。本当に可愛い」「おい、!次は俺の番だ。早く代…

  • 06

    事務所内に置かれているロッカーを閉め出入り口へと向かい、扉の前に立つと後ろを振り返る。「それではお先に失礼します」「はい、お疲れ様」「お疲れ様でした」頭を下げ挨拶をしたは扉を開け廊下へ出た。「さてと、買い物に行くか」誰もいない静かな廊下を歩…

  • 07

    豪華な赤絨毯の上を歩いていると赤子特有の泣き声が聞こえて来たので、歩く速さを早めて声のする方へと向かう。扉を開くとグンマとベビーベッドで泣いているコタローと、何やら不思議な構えをとったシンタローがいた。「また喧嘩?やめなさいよね。コタロちゃ…

  • 08

    「本当に悪かった!」土下座をしたシンタローを見ながらは綺麗に向かれたリンゴを口に運んでいた。蜜がたっぷりと入ったリンゴは甘くてとてもおいしく、一つ、二つと、どんどん食べていく。リンゴの皿が空になった頃、は土下座をしているシンタローに向かって…

  • 09

    朝の五時。朝泣きをしたコタローの相手をしていると電話が鳴った。こんな時間に電話をかけてくる人物は一人しか思い浮かばない。は日に増して重くなっているコタローを抱きかかえた。「よいしょっと。さぁ、コタロちゃん、パパからの電話だ。リビングに行きま…

  • 10

    子供の成長は早いものだと思いながら、はコタローの姿を必死になって探していた。先月、シンタローとが見守る中でコタローは初めて掴まり立ちをし、その小さな足で立ちあがった。それからというもの、二人は暇があればコタローの手を握って歩く練習をさせてい…

  • 11

    ガンマ団本部にある中庭にとグンマはいた。暖かい日差しが降り注ぐ中、グンマの横に座りシンタロー特性のお弁当を渡す。今日は月に一度のグンマとのランチの日。社会人になってから、二人は日にちを決め月交代で互いにお弁当を持ち寄り、お昼を食べるようにし…

  • 12

    「誰!」「そっちらこそ誰どす!」「人間?おばけ?どっち!―――おばけ?」「失礼な!わては人間どすッ!」は心臓が速く動いているのを感じながら部屋のスイッチを探すと、すぐに見つかり素早く押して明るくする。部屋は使われていない物置のようで、埃を被…

  • 13

    事務仕事のだからか、ふくらはぎが酷く浮腫んでしまっていたは、重い足取りで赤絨毯の廊下を進みリビングの扉を開けると、近寄って来た小さな弟のためにしゃがみこんだ。「ねーね、かえりー」「ただいまーコタロちゃん」「ぎゅー、ぎゅーして」「はいはい。ぎ…

  • 14

    Gからの通信により特戦部隊の一時的な帰還を知ったは昼休みに外へと出ると足早に掩体壕へと向かう。ハンガーが立ち並ぶ区域を整備兵と擦れ違いながら、一番奥にある古めかしいコンクリート製の大きなかまぼこ型の建物に到着すると、は鉄で出来た大きな扉を慣…

  • 15

    太陽が沈みかけ空が赤く染まる時間。本日の業務を早めに終え事務所を後にしたは夕日の色の無機質な廊下を歩いていた。エレベーターは使わず健康のために物寂しい階段を降り、いくつかの角を曲がり目的地の扉に着くと、は部屋を確認するために顔を上げる。扉の…

  • 16

    「シンタロー君、レジャーシートってどこにあるのー?」「多分倉庫じゃねーかなー」「わかった、ありがとー」キッチンに立つシンタローに呼び掛けると、すぐに答えが帰って来たのでは大きくなったコタローと手を繋ぎ倉庫へと向かう。大きな扉を開け中に入ると…

  • 17

    コタローを抱いたシンタローの後をは小ぶりのボストンバックを持って歩いていた。エレベーターホールに着くとはボタンを押す。「本当に下まで見送りに行かなくて良いの?」確かめるように言った。「おう、ここまででいいよ。コタローと離れるのが辛くなる」大…

  • 18

    は気が付くと、見知らぬ部屋のベッドの上で寝ていた。体がいつもより重く感じる。もしかしたら掛け布団が重いのかもしれない。視線だけ動かして周りを見た。ドアが1枚あるが窓が無いため、蛍光灯の明かりはついているがとても暗い部屋だった。壁際に小さな棚…

  • 19

    屋上に出た時、目に飛び込んできたのは何処までも続く青い空。全自動車椅子を操作しフェンスの近くへと移動する。アルミで出来た柵の向こう側に広がる景色をは眺めていると、一隻の巨大な戦艦が雲の向こうから姿を現した。「シンちゃん帰って来たね」後ろから…

  • 20

    「退院おめでとう!」グンマから花束を受け取ったはリハビリや入院生活を思い出し感極まって涙をためていた。「まったく、みっともない。これを使いなさい」グンマの隣に立った高松は懐からハンカチを取り出し、に差し出してきたので受け取り零れてきた涙を拭…

  • 21

    「疲れたー。もう今日は何もしたくなーい」一人そう言うと、柔らかなソファーに倒れ込みヒールを脱ぐと、ふくらはぎに手を伸ばし揉みほぐす。は先日退院したばかりで、リハビリはしていたと言っても完璧に体力が回復していなかったために、一日目一杯働くと身…

  • 22

    総帥室の隣にある待機室の扉を開け辺りを見回し確認すると、ゆっくりと閉める。誰もいない廊下を小さなリュックと小振りの旅行鞄を持ったは堂々と歩いていた。全ての廊下に監視カメラがある事や、管理室にいる警備兵が見ているかもしれない事は知っていた。見…

  • 23

    潮風に吹かれながら、は空に浮かぶ白い雲を眺めていると肩を叩かれた。「船酔いか?」心配そうな表情でシンタローがこちらを見ていた。は彼を安心させる為、頬笑みを浮かべる。「大丈夫。それより操縦は?」「自動操縦に切り替えた」「便利だね」は甲板の手す…

第四章

  • 01

    背中に衝撃を受け意識を取り戻したはゆっくりと瞼を開く。海水で濡れた身体を持ち上げ辺りを見渡すと、そこは夕日が差し込む見慣れた廊下だった。なぜ、グンマの屋敷に居るのか首をかしげながら手の中にある秘石を強く握りしめた時、廊下の隅に一人の男性が立…

  • 02

    「あっ、どうも。すいません」「それで続きなんだが良いかい?」「はい」紅茶のおかわりを受け取りながら、濡れた頭をフル回転させつつ頷く。は今、ルーザーと名乗る男性とお茶をしていた。廊下での口論の後、彼は話を整理しようと提案してきた。最初に案内さ…

  • 03

    「。夕食は軽めのもので頼む」「はい」研究室へ向かったルーザー姿が見えなくなってから古めかしい掃除機の電源を入れ直した。過去に来て今日で丁度一週間。はルーザーの家政婦として働いていた。過去に来た初日。小難しい説明が終わった後に未来から来た敬愛…

  • 04

    日曜のまだ薄暗い早朝。朝食の仕込みを終え手が空いたは、二階にある図書室へ読書用の本を探しに来ていた。入り口で電気を付け立ち並ぶ本棚の間を通り抜け一番奥の扉へと向かう。扉を開けて中を覗くと、そこはの知らない部屋だった。変わらないのは裸電球と小…

  • 05

    壁に掛かった鳩時計が正午の時間を知らせている。食堂に食事を運びいれたは椅子に腰かけると、この屋敷の主が来るのを今か今かと待っていた。昼食のハンバーグと付け合わせのジャガイモやニンジンを眺めてから時計を見る。いつもならルーザーは十分前にはふら…

  • 06

    ベッドに横になっていたルーザーは未来から来たという自分の姪について考えていた。寝返りをし、枕の位置を整える。ベッドの脇に置かれたチェストの上に飾られている家族写真を見た。ルーザーが十一歳の時のもので、真っ赤に燃える総帥服に身を包んだ父と、ま…

  • 07

    朝食後のコーヒーを飲み終えたルーザーは、汚れた食器の片付けを始めたに本日の予定について話し始めた。「誕生日、パーティーですか」「そう、よかったら一緒に来ないかい」今日は六月十二日。ルーザーの誕生日だった。彼の話によるとガンマ団本部で一族総出…

  • 08

    ルーザーを見送ったは自室へと戻り、支給された作業服からG特製のワンピースに袖を通す。バックに財布が入っているか確認すると自室から出た。廊下の窓の鍵が閉まっているか見て歩いていると玄関の扉が開いた音がした。はルーザーが忘れ物を取りに戻って来た…

  • 09

    「それじゃ、私は買い物に行きますね。パーティー楽しんで来て下さいね」「あぁ、も気を付けて」ルーザーと屋敷の前で別れ、彼の後姿を見送ったは林の中を歩いていた。木々の木漏れ日を浴びていたが、肌寒さを感じたので速足になっていく。身体が丁度良く火照…

  • 10

    「ところで、去年はどんなプレゼントをあげたんですか?」レンガ道を歩きながらは逞しい少年に問いかける。少年は頭を勢いよく掻いていた。「たしかネクタイ」「その前は?」「白衣。んでよぉ、その前は腕時計だし。一回兄貴と、兄貴ってマジック兄貴な。兄貴…

  • 11

    食堂で作業をしていたは玄関の開く音が聞こえると、扉を勢いよく開け廊下へと飛び出した。足早に角を曲がり、顔を出すと玄関の扉の鍵を閉めている荷物を抱えたルーザーの後ろ姿があった。「おかえりなさい」「ただいま」彼はこちらを振り返らずに言う。はゆっ…

  • 12

    「街まで出かけるけど、一緒に行かないかい?」「行く!」廊下の窓ガラスを拭いていたは突然の誘いに元気よく答えた。「着替えて来るから待ってて」「んー、それなら待っている間に車を温めておくから」ルーザーは笑いながら車庫に向かっていった。足元に散ら…

  • 13

    薄暗くなった林道にヘッドライトの明かりが流れる。買い物を楽しんだとルーザーが屋敷へと帰って来ると、玄関に一人の男性の姿があった。男性は暗くても分かる程の燃えるような赤い服を着ており、玄関の柱に身体を預け立っていた。「兄さんだ」「お父さんだ」…

  • 14

    急いで作業服に着替えたは新しいエプロンに袖を通すと、駆け足で厨房へと向かう。ケトルに水を入れコンロへ置いた。ティーカップ等を食器棚から出しお盆へと並べ、お茶受けを準備しているとお湯が沸いた音がし火を止めポットへ茶葉を入れる。いつもと同じ動作…

  • 15

    肌寒い土曜日の朝。すべき事がなかったはリビングのソファーに座り窓の外の初雪を眺めていた。暖炉で薪が燃えている音を聞きながらテレビのスイッチを入れる。液晶画面に映し出されたのはニュースでガンマ団と敵国の戦況。興味がなかったはアナウンサーの話し…

  • 16

    「うまかったー。ごっそさん」喫茶店から出たハーレムは自身の腹部をさすりながら鞄に財布を戻しているに言う。「オムライスって最高だな」「喜んで貰えて良かったです」行き交う人々の中に入りながら二人は並んで歩き始める。「これからどうする?どっか寄り…

  • 17

    ガンマ団本部の病棟。は転んだ時に出来た右膝の擦り傷の手当てをしてもらっていると、走っているかのような大きな足音が聞こえた。足音は部屋の手前で止まるのと同時に部屋の扉が勢いよく開きルーザーが飛び込んできた。「ッ!大丈夫!?」髪を乱して顔を青く…

  • 18

    オーブンに入っているパイに添える付け合わせのソースを小鍋で作っていると、玄関のチャイムが鳴り響いた。は慌ててコンロの火を止め厨房を飛び出す。駆け足で玄関へと行くとそこには一人の綺麗な少年が立っていた。「サービスさ、様。」「……」サービスは腕…

  • 19

    メイン料理の牛肉のトマト煮込みにフォークを向けながらは正面に座るルーザーを見て口にする。「それじゃ、明日の誕生日パーティー終わったらお父さんすぐに本部を発つって事なんだ。すぐクリスマスと年末が来るのに大変だな」「なんでも新しい支部は大規模で…

  • 20

    「はーい。どちら様ですか?」玄関の呼び出しのチャイムが鳴ったのでは扉を開く。そこには防寒着を着こみ鼻の頭を赤くしたサービスが立っていた。外は冷たく一瞬で凍えてしまう程の風が吹き荒れていたのでは彼を屋敷内へと招き入れた。「サービスさ、様。あけ…

  • 21

    機嫌良くは鼻歌を歌いながらオーブンを覗きこむ。硝子の向こうで大きな丸鳥が音を立て焼けていた。残り時間を確認するとお盆にワイングラスやフォーク等の食器を乗せ厨房から食堂に向かう。久しぶりに二人分の食器を用意していると、玄関の扉が開いた音が聞こ…

  • 22

    リビング内は暖房がきいており窓ガラスは白く曇っていたが、雲の間から顔を覗かせている太陽の光で輝いている。は長方形の箱を開けると、そこには規則正しく並べられた美味しそうな和菓子が入っていた。「胡麻、塩に豆。これは抹茶で、こっちはよもぎかな?ど…

  • 23

    書斎の扉をノックし返事を待つ。学生の頃、宿題のわからない問題を質問しに、頻繁にこの部屋に来たことを思い出したは懐かしさに口元を綻ばすが、目的を思い出し気合いを入れなおした。ルーザーの返事が聞え重い扉を開き中に入る。彼の背後にある窓の外の雪が…

  • 24

    週末の騒がしい人混みを避けながら商店街を進む。この街では数少ない書店にやっとの思いで辿り着いたは硝子で出来た扉を開き暖かな店内に入り込んだ。少し薄暗い通路を歩き外国語の区画に向かい、表題を見ずに適当に棚から本を取り出すと目を通す。小難しそう…

  • 25

    「あっ!」春の日差しを受けながら二階の窓掃除をしていると、屋敷の正面に伸びている林道を歩いている人影を見つけた。まだ少し寒いのか彼はガンマ団から支給される上着のポケットに手を突っ込み大きな背中を丸めていた。掃除道具をまとめるとは階段を駆け下…

  • 26

    甘い香りに包まれながらはサービスの手元を見ていた。「そこで、メレンゲを加えてサッと混ぜる。頑張って作った泡を潰さないで混ぜるのがポイント」「こんな感じ?」「そうそう、上手いじゃない。混ぜ終えたら器に入れて焼くだけ」ちらりとサービスの顔を見る…

  • 27

    「遅くなってすみません!」屋敷の前に停まっている2ボックスセダンの扉に寄りかかっているマジックには声を掛けながら駆け寄った。カジュアルな格好をしているマジックの前に立ち見上げると、彼は優しい表情を作り微笑んでいた。それは未来にいた時によく目…

  • 28

    病室のベッドに横になりながら窓の外を眺めていた。果てしなく続く青空に動かない白い雲。あまり変化のない日々。変わっていくのは傷口の治りだけ。はこの人生で三度目の入院生活を送っていた。「、入るよ」ノックと同時にルーザーは病室の扉を開け、一人の白…

  • 29

    「こんちはー」「大丈夫?」突然の訪問者には身体を起こしてから笑みを浮かべ迎え入れた。「サービスさんにジャン君いらっしゃい」「銃に撃たれたんだって?大丈夫?」「大丈夫。サービスさん心配してくれてありがとう。高松君の治療のおかげで、後三日程で退…

  • 30

    「それじゃ、退院したらサービスの友達と一緒に南の島に行くんだ」「そう、少し違う空気が吸いたくてね」あっという間にルーザーの機嫌が悪くなっていくのを感じ、は彼を見つめながら言葉を口にする。「心配しないで、彼の事は……」脳内にジャンを思い出すが…

  • 31

    暑過ぎる空気に包まれながらは小さな船をジャンに続いて降りた。「空気がなんか濃いね」「そうか?」長い船旅で疲れた足を必死に動かし、白い砂浜を歩きジャングルへと向かう。「船でも説明したけどこの島は神聖な所なんだ。この島の住人に見つかったら大変な…

  • 32

    ホコラの中は空気が冷えており気持が良かった。は深呼吸を繰り返し肺に冷たい空気を取り入れジャンの後を追う。少し進むと開けた空間に辿り着いた。「着いたぞ」ジャンは石で出来た台座の様なモノに触れながら言う。「秘石は?」「ここには無い」「は?話が違…

  • 33

    昨夜の誕生日パーティーで食べ過ぎたのか作業着のメイド服が少しきつく感じたは腹部に力を入れた。大型の洗濯機から洗いたての衣類を取り出し籠へと移す。洗剤の清潔な香りに包まれながら重い籠を掴むと天気の良い外へと出た。ジャンの故郷で赤の秘石と会話を…

  • 34

    少し曇った空。さわやかなそよ風が吹く中、とルーザーは屋敷の近くにある林の開けた所にピクニックに来ていた。「ねぇ、ルーザーさん」「何?」「近くない?」「別に困る事はないだろ」キッパリと言うとルーザーはさらにに体重を掛けて来る。「まさか、重い?…

  • 35

    堅苦しい本部のメイン玄関から出たは息を吐き出し、滑走路に停まっている巨大な戦艦を見てから歩き出した。ルーザーの屋敷に戻る為、足を動かす。いつも着ている作業着と違いスラックスのズボンは歩きやすいと思っていた。最初いつも通りの恰好で本部に向かお…

第五章

  • 01

    声が聞こえた。懐かしい家族の声。しかし、は、その声が誰のものなのかわからなかった。意識を取り戻したはだるい身体を持ち上げる。咄嗟にルーザーを探すが彼の姿は無かった。落胆しながら状況を把握するため辺りを見渡す。どうやら洞窟のような所に居るみた…

  • 02

    モッくんに連れられて来た所は可愛らしい動物の顔をした建物だった。そこでは一人の少年と犬を見た。一人と一匹はモッくんを見ると嬉しそうに駆け寄ってくる。「モっくん、こんばんは」「わう」「はい、こんばんは」「運動会に来なくてざんねんだったぞ。とこ…

  • 03

    暗くなりかけの時間にモッくんは帰っていった。家にはパプワとチャッピー、そしてのみとなった。おかわりのお茶を啜っていると、部屋の中にお腹が鳴る音が盛大に響く。「おい、。何か作れないか?ぼくは腹が減ったぞ」「わぅ~」「チャッピーも減ったそうだ」…

  • 04

    「ただいまー」「遅いぞ!シンタロー!」「わっうー」シンタローが姿を現したのは空に星が輝く頃だった。パプワハウスに入ってきた彼に向かってパプワとチャッピーは布団から飛びかかる。「チャッピーえさ」「ぎゃーごめんなさぁいーご主人様~」パプワの号令…

  • 05

    何処までも広がる青空に、少し寒い風が吹く。お湯を入れた大きな貝殻の中でチャッピーを洗いながらは額から汗を垂らしていた。現代に戻って来て一日が経っていた。シンタローと再会したはその夜、彼の口からいろいろと話を聞いた。海でと離れ離れになってから…

  • 06

    「ねぇ、シンタロー君」「なんだ?」月見団子を作りながらは隣で同じ作業をしているシンタローに話しかけた。「日本に行かないの?」「―――だから、秘石がないから、」「お金なんてどうやってでも工面出来るじゃん」「……」「ねぇ、私早くコタロちゃんに会…

  • 07

    パプワハウスに遊びに来たヒグラシのエンドウくんと共に出かけていったパプワ、シンタローとチャッピーを見送ったは部屋の掃除に取りかかっていた。掃除洗濯の家事と食材集めは一日交代。調理は一緒に行うとシンタローとは決めていた。布団を持ち上げ外へと運…

  • 08

    雨雲を追ってジャングルを抜けるが雨は降っていなかった。残されているのは二人の男性と濡れた地面。ちらりと濡れた足元を見ると、いくつもの生物の足跡がついていた。視線を戻したは彼等を見る。この二人の事は知っていた。「ミヤギさんに、トットリさん!」…

  • 09

    「あっ!こら、タオルに血がつくじゃない!此処には近づかないでブースケ君!それから貧血になるからそんなに血を出さないの!」ハリネズミのソニくんに特別に作ってもらった白い水着を身につけたは、荷物を置いてある木陰に近づこうとしていたカラフルな巨大…

  • 10

    太陽が真上で輝く時間。昼食のデザートの果物を取りには果樹園に入る。この島は生物以外に植物も独自の進化をしており、様々な果物や野菜が気候に関係なく収穫することが出来た。リンゴ。ドラゴンフルーツ。オレンジ。大きな籠を抱え果物を次々と入れていく。…

  • 11

    まだ辺りが薄暗い早朝、はトンガリ山を必死になってよじ登っていた。背負った果物が入った籠が肩に食い込む。山頂が見えた時、は嬉しさで登るスピードを上げた。「つ、着いたー。やっと着いた、疲れた……」籠を降ろし呼吸を整えながら岩肌に座り込む。心地よ…

  • 12

    「高松さんに、グンマ君!」パプワハウスに到着したが目にしたのは、入口の外で倒れている高松にグンマだった。巨大な卵の入った籠を地面に置くと、彼等の側に寄り膝をつく。二人の顔を覗きこんでいると、パプワハウスの扉が開きシンタローが顔を出した。「お…

  • 13

    「チャッピー元気ないね」「そうだな」シンタローの隣に立ち鍋を混ぜていたはちらりと後方を振り返った。パプワと一緒に遊んでいるチャッピーの顔はいつもと変わらない様に見えるが少し影がある。「フッ君が帰って2日よね」「あぁ」は先日までパプワハウスに…

  • 14

    パプワが倒れてから半日が経った。島で唯一の医者を呼び診てもらっている。井戸から水を汲み桶へとなみなみと入れた。パプワが倒れた事に動揺していたは水を少し溢してしまったが気にせずパプワハウスを目指す。は医者に言われ水を汲みに来ていた。パプワハウ…

  • 15

    薬草の花を持ったシンタローが姿を現したのは数時間後だった。服は汚れ、腕には軽い火傷を負っている。炎の崖での薬草採取が壮絶なものだった事が窺えた。「わっうーわう」真っ先にチャッピーが駆け寄り彼に飛び付く。「ただいまチャッピー」「わう」もチャッ…

  • 16

    「よし、完成だ!」鍋を掻き混ぜながらシンタローは言ったのでもまな板を洗っていた手を止めた。「パプワ君達呼んでくるよ」「いや、俺が呼んでくる。皿並べ始めてくれ」「わかった」パプワハウスを出ていくシンタローを見送ってから食事の準備を始める。今日…

  • 17

    照りつける太陽の下、は白い砂浜にいた。シャツの袖とスラックスの裾を捲り、裸足で歩く。背中には籠を背負っていた。籠の中には数多くのゴミが入っている。数歩進むとしゃがみ海岸に辿り着いたゴミを拾い背中の籠に放り込んだ。「ちゃん、ゴミ拾い大変ね」声…

  • 18

    その日はいつもと同じ一日だとは思っていたが違った。異変に気がついたのはシンタローがしていた洗濯物が放置してあった事から始まる。おかしいと思いつつ近くで踊っているパプワに話を聞く。すると彼はエグチとナカムラが遊びに来て森の中で珍しいヒトに会っ…

  • 19

    パプワハウスで行われている宴会の様な食事会。は皆に食事が行き渡ったのを確認してからパプワハウスから出た。向かうのはサービスが乗って来たヘリコプター。ヘリコプターはパプワハウスの裏のジャングルを抜けた先にあった。「サービスさん」岩の上に腰掛け…

  • 20

    子供のように泣き疲れ眠り込んだシンタローに毛布を掛けてから、はヘリコプターの窓から外を見る。そこには何処までも広がる暗い海が広がっていた。硝子に映る自分の顔を見ていると名前を呼ばれる。「」サービスは優雅にお茶を飲みながらこちらを見ていた。「…

  • 21

    「久し振りのガンマ団はどうだ?シンタロー」「ムカつくよ」いらついた様に言うシンタローの後姿を眺めながら、は彼等から二、三歩遅れて歩いていた。入り組んだ迷路の様な廊下を進むサービス。規模の大きい基地だと言うのに、日本支部の団員と擦れ違わないの…

  • 22

    瞼の向こうに強い光を感じたは重い頭を動かし目を開けた。「おねーちゃん!」「コタロ、ちゃん?って眩しッ!」は両手で顔に当たる光を遮りながら起き上る。体に掛かっていた薄い毛布が落ちた。コタローは嬉しそうにしながら懐中電灯のスイッチを切りベッドに…

  • 23

    「大人しく待ってたんだな」「ハーレムさん、鍵かけてったくせに」ハーレム達が飛行船に帰って来たのは日が暮れてからだった。いつ島が吹き飛ぶのかを心配をし、疲れ切っていたはソファーに座り不機嫌そうに顔を動かし彼を見る。「コタロちゃんは?」「俺の部…

  • 24

    特戦部隊に身を置いて四日が経とうとしている。コタローを連れて逃げだそうと何度か試みたが全て失敗に終わり、はトイレとシャワー以外はハーレムの執務室から出る事を禁じられていた。開かない扉。パプワ島が危険にさらされている恐怖。唯一の救いなのはコタ…

  • 25

    昼食後、突然の来客がありはコタローと離されハーレムのベッドルームに閉じ込められた。鍵の掛かった扉に耳を押しあて執務室の話を聞こうとするが聞き取れない。数時間もの長い時間が過ぎていく。するべき事が無くなったは窓の外を眺めているとある人影に気が…

  • 26

    「それじゃ、高松さんとサービスさんはお父さんへの復讐の為、協力して赤ちゃんをすり替えたって事か……なにそれ!?紛らわしい事しないでよ」は高松と金髪のシンタローと並びながら暗くなったジャングルを歩いていた。「それにしても、グンマ君がルーザーさ…

  • 27

    シンタローやサービス達と合流する高松とキンタローと別れたは特戦部隊の船に戻るために歩いていた。ジャングルを歩きながらの空を見上げる。星の数が減り微かに明るくなっていた。完全に太陽が昇る前に船に戻りたかったはスピードを速める。特戦部隊の飛行船…

  • 28

    目的地に辿り着くのはの予想以上に早く、彼女は走るスピードを緩めた。そこには大勢の人が集まっていた。青の一族をはじめ、特戦部隊の隊員にシンタローを倒すために送り込まれた刺客達もいた。はそっと彼等の会話が聞こえる位置まで移動するとジャングルの草…

  • 29

    覚醒したはゆっくりと瞼を持ち上げると頭に痛みを感じて顔を歪める。手を伸ばし頭に触れると包帯に指が触れた。体を起こすとそこは少し湿った洞窟の様な場所だった。耳を澄ますと海のさざ波の音が聞こえる。「ちゃん!!」体を起こすと聞きなれた野太いが音程…

  • 30

    島全体が揺れるのを感じながらは地面を見ていた。複数の足跡が地面には付いておりそれを追って走る。ジャングルに入ると目印の様に所々枝が折られており道に迷うことなく目的地の戦場に辿り着いた。「皆ッツ!!」ジャングルから飛び出すとは叫ぶ。その声にそ…

  • 31

    アスまであと数歩というところでは自分の身体が浮くのがわかった。すかさず顔を上に向ける。そこには眉間に皺を寄せたキンタローがいた。彼はを抱えると後方へと移動する。キンタローの腕の中で彼女はアスを睨みつけるのを止めなかった。「一発殴り倒さないと…

  • 32

    「ど……どうしたんだ一体―――?」状況が理解できずにいるキンタローの横ではある憶測を立てていた。もしかしたらシンタローがアスを抑え込んだように、ルーザーも体の内にいるアスを抑え込んだのかもしれない。はそう思うと駆けだしていた。「ルーザーさん…

  • 33

    頬を濡らす涙と顔に付着していた血を乱暴に拭きはコタローの側に寄ろうとした時、スラックスを引っ張られた。咄嗟にルーザーだと思い下を向くと、そこにはチャッピーに乗ったパプワがいた。「パプワ君にチャッピー君。どうしたの?」は無理やり笑顔を作り、幼…

  • 34

    静まり返った墓地に女が一人いた。晴れた空によく似合う白いワンピースを着た彼女は白い大理石で出来た輝く墓石の前で座っていた。「それでね、シンタロー君ったらコタロちゃんのベッドに花を大量に飾ってさ、歩くスペースが無いの。それを見たグンマ君がやき…

第六章

  • 01

    滑走路に降り立った飛行機の窓を覗き込む。は外を眺めていた。そこに見えるのは聳え立つ武装された塔だった。ちらりと視線を動かすと、これから飛び立つ戦闘機が見えた。頭に浮かぶのは初めてこのガンマ団に来た時の事。サイエンス・フィクションの小説や映画…

  • 02

    屋上の手摺に身を預けながらは遠い地面を眺めていた。一人、二人、三人、四人、五人と数えているうちに人数が多くなった為目線を下界から逸らす。「なにをしているんだ?」突如声を掛けられたは視線を動かし声のする方をみると、そこには白衣を着たジャンが立…

  • 03

    土曜日の朝。まだ外が薄暗い時間、は厳重なセキュリティーの扉を通り抜けた。壁際には積み上げられた玩具に、枯れることを知らない花が活けられている花瓶。中央に置かれているベッドに寝ている少年。いつもと変わらない光景。はベッドに近づき少年の顔を覗き…

  • 04

    大量のパンケーキを焼いていると扉の開く音がした。視線を動かし音のした方を見ると、いつも通りのスーツ姿のキンタローが立っていた。「―――おはよう」「おはよう、キンタロー君」挨拶を交わしてからはフライパンを覗き込む。焦がさないように細心の注意を…

  • 05

    「え?明日、高松さんを連れて一緒に帰る?」は目の前に座るサービスを見て声を上げた。「そうだ。キンタローとグンマが何か言ったらしくてね。隠居するらしいよ」「隠居って……」サービスの言葉には苦笑いを浮かべながら紅茶の入っているカップに手を伸ばし…

  • 06

    小さなスコップに付着した土を落とし終えた高松は、小箱を眺めているを見た。彼女は頬を赤く染め眉間に皺を寄せていた。「さん」名前を呼ぶとは慌てた様子で彼を見上げる。「な、何?」「なに動揺してるんですか」「べ、別に動揺なんかしてないし。それよりど…

  • 07

    小さな金色の鍵を握りしめたはある部屋の前に立っている。そこの扉はいつも閉まっていた。ドアノブの下の小さな鍵穴に鍵を差し込み捻るとカチリと音を立てた。鍵を引き抜くと扉を開けそっと中に入る。壁に設置されている電気のスイッチを押し部屋を明るくする…

ちょっとした設定

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    最高に素敵な夢主のイラストになります。 乙音様より ザキ様より 千代様より ななみ様より 斑鳩様より かるあ様より ななし様より 和音様より

夢絵になります。苦手な方はご注意ください。

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